【Q】七種泰史
いい、悪いは、難しいですが、
法的に悪いとされるタイプフェイスについて、倫理を含めてお聞かせください。

【A】土屋淳
一言で言ってしまえば、「パクリ」です! これはタイプフェイスに限ったことではありませんが…。偶然、類似してしまうことも確かにあります。しかし、そう思わざるをえない作品は、クオリティの低いものがほとんどで、腹立たしくなります。そこには、作者の仕事に対する努力もプライドもなく、モラルの欠如が感じられるからです。私も沢山の作品をヒントにし、影響を受けているわけですが、結果的には自分のコンセプトにあった、アイデンティティある作品に昇華していきたいと思っております。

【A】加藤辰二
ご存じのように、タイプフェイスは現在明文化された「法」では保護されていません。それで判例によって、よい、悪いを判断することになります。以下二つの判例と、外国の情報を一つ報告いたします。
 その1 原告ニイス(NISPOP) 被告創英(創英POP)平成12年1月判決 東京地裁不正競争行為差止事件
 NISPOPの横線たて線の太さを、打ち込みからとめに対して逆に扱い、ゴシック体風の点をところどころ円に改変した。NISPOPの間違い文字や偏の書き癖などが、そっくりそのまま書かれているなどの創英POPに対して、不正競争防止法で争われた。判決の焦点となるとことは、1、原告POP書体が周知な商品等の表示でなかった。2、被告らの行為が原告らの法的利益は損なわれない。としてニイスの全面敗訴であった。つまり、ニイスの書体が周知を有していないことでもあり、そのくらい似ていても一度書いてあれば、誤認混同してあなたが儲け損なったといわれても、法はその責を負えるものではないと言っているのだ。書体の商品性、周知性を認め、不競法による仮処分を認めたモリサワ/山内氏との事件(平成5年東京高裁判決)と較べると、周知性の重要性が不可欠であることが理解できる。
 その2 原告写研(ゴナ)被告モリサワ(新ゴ)反訴原告モリサワ(ツデイ)反訴被告写研(ゴナ)互いにタイプフェイスには著作権があると主張、相手が著作権侵害をしたとして争った。大阪地裁判決(平成9年6月)では、ゴナ、ツデイは著作物ではないとして棄却した。その後写研だけが大阪高裁/最高裁に控訴上告したが、いずれも棄却された。
 ゴナなど通常の印刷書体には、タイプフェイスの特性上創作の余地が少なく、従来からあるゴシック体と較べた場合、平均的一般人の美的感興を呼び起こし、その審美感を満足させる程度の美的創作性がない。仮にこのような要件を満たさない書体に著作権を認めた場合、小説や論文等を印刷出版するについて、氏名表示や許諾が必要になる。また従来のタイプフェイスを参考にして、類似のタイプフェイスを制作したり、改良したりすることが出来なくなるから、認められないと言っている。
 その3 文化庁平成11年度発行の資料から台湾のタイプフェイスの著作権法について(抜粋)タイプフェイスが著作物であるとされていること。
 台湾著作権法5条1項に例示されている「美術の著作物」には、タイプフェイス(字型絵画)が包含される。内政部公示にこのことが明示されている。(著作権法第5条第1項各款著作内容例示」二項(四))国際的にタイプフェイスの保護のあり方が議論されているなか、著作権法での保護を明確にしていることは注目に値する。台湾国民の漢字文化を尊重する気風と関係があるという指摘もある。
 以上三つ報告しましたが、皆さんどんなことを感じられたでしょうか。私なりに少しまとめてみたいと思います。二つの判例から見えてくるものは、不正競争法では周知性が不可欠であり、例え引き写したものであっても、誤認混同がおこらなければOKと言っているように見える。また現行著作権法では、絵(書の範疇)のようなもの以外のタイプフェイスは保護できないと言っている。裁判官の目に写っている創作性とタイプフェイスを作るプロのいう「微細な違いが命」との間には天と地の開きがあるということであろう。
 ここで本題の法的に見た、よい、悪いタイプフェイスにもどると、デッドコピーは絶対に駄目、それとデッドコピーを電子的、機械的に太らせたりしたものも駄目と言うことである。創作性及び美的特性のないものは、引き写しであっても一旦書いてあればOKということになる。しかし、これだと何をやってもOKということになってしまう。これではタイプフェイスを作る者にとってはどうしようもない。
 対策として考えられるのは、三つの事柄である。
一つは、作家が倫理を掲げ襟を正すこと。
1、丸写しといわれる表現をしない。
2、大部分は従来のタイプフェイスを用い、一部分だけを改造して自分のタイプフェイスだと言わないこと。
二つ目は、判例がおかしければ、おかしいと声をあげること。
三つ目は、明文化された立法に向けて、我々が法律のひな形を作ってみること。
 上記3点は中々困難ではあるが、FONT1000の仲間で立ち向かえないだろうか。

【A】西田一成
極端ですが「法的に悪いとされるタイプフェィス」は無いと思います。生産者が丹精込めて作ったお米(タイプフェイス)を誰かが盗んで売ったとしても、その人が悪いのであってお米が悪い訳ではない。真似したとしてもお米が悪い訳ではない。問題は「マネする行為」である。書体の持っている「骨格やエレメントのマネか」「創作する上での発想のマネか」である。創作する上で、他の書体から「ヒント」を受ける事は多々あるだろう。それだけに自分のデザインが「類似していないかどうか」チェックしてから制作に取組むべきです。「この書体は、あの書体に似ていると言われそうだな」と思ったらやめるべきだ。「類似か否か」それは創作した当事者が一番知っている筈ですから。少なくても私は「真似ない」あなたも「真似ない」事です。時間とエネルギーがあるならオリジナルを作りましょう。デザイナーなら当たり前の事です。思うにタイプフェイスに、書体名の他に制作者なり監修者の名前を明示しないといけませんネ。